恋の駆け引き 第8話
初めてだった。
ここまで真剣に女を追いかけたのなんて。
今までの俺は来るものは確かに拒まなかった。が、去るものを追おうとしたりはしなかった。 いや、今回のにだって、最初はここまでしつこく告白なんて気、全く無かった。 それが何だ、向日達と妙な約束をしたばっかりに・・・!!!俺は何をしてんだよ・・・・・!!!
そうだ。アイツとあんな約束をしたから、俺はこんなことしてるんだ。俺がたかが一人の女に本気になるはずなんてねぇんだ。相手が勝手に本気になってるだけで、俺は本気で人を好きになったことなんて、今まで一度だってねぇんだからな。
そりゃ、最初にフラれた時は、多少は頭にくるものがあった。だけどそれはただ単に、俺様のプライドを傷つけたあの女に少し腹が立っただけで、別にアイツを本気で好きになったとか、そんなんじゃねぇ・・・!!
そんなんじゃねぇはずなのに・・・・・
なんで俺はこんなに真剣になってんだ?何時の間にか・・・・ 気づくとアイツを目で追ってて、アイツに声掛けてて・・・・・
本当に、賭けのためだけか・・・・?
そうだよな・・・?賭けしてるから、こんな真剣になってるだけだよな・・・?
俺は女に本気になったりしねぇよ・・・・!!
跡部は今日もへのアタックを繰り返していた。 いよいよ賭けの期日は明日に押し迫っていた。今日は何としてもからOKの返事を貰いたかった。そうでなければ、跡部は一週間、向日の言いなりになってしまうのだ。
「俺の女になれよ。」
「しつこいっつってんでしょ。」
そんな2人の会話を見守る4つの目。
「へっ!!今日も跡部は進展なさそうだな!くくっ!俺たちに嫌そうに従う跡部の姿が目に浮かぶぜー!!」
木の陰から覗いていた向日が、くーっと歓喜の声を挙げた。
「まぁホンマに結果オーライやけど・・・岳人、今回はたまたまうまくいったけどな、あんまり軽はずみなことせんといてや・・・・。俺がはらはらしてかなわんわー。」
忍足も二人の進展の無さを見てホッとしていたのは確かだったが、彼は向日のようにはしゃごうとはせず、淡々とした口調で言った。
そう、今日もこの2人は何の変化も無いまま終わるかとおもわれた。 跡部は結局にOKとは言ってもらえないまま、向日たちの勝利になるかと思われた。
しかしそんな最後の局面へと差し掛かった時、大きな変化が起こった。 あの跡部が、普段は人を見下したような態度しか取らない跡部が、だ。
「なぁ、おい・・・頼む・・・・」
去って行こうとするの背中にそう呟いた。
「え・・・??」
歩き出そうとしていたは足を止め、振り返って聞き返す。
「俺・・・お前が・・・・が好きみてー・・・だから・・・・!!」
跡部は柄にもなく赤くなっていた。そんな彼の姿を、はただただその場に立ち尽くしてじっと見つめていた。
跡部は相変わらず赤面したまま話を続けた。
「最初はな、向日たちとの賭けに負けねーためだけだったんだぜ? ・・・だけど気付いたら俺は無意識にお前を目で追うほどになってやがった。認めたくはねーけど・・・俺は・・・・」
そこで跡部は一呼吸置いた。
「・・・・・・。」
「・・・・・・。」
跡部の言葉に一番驚いていたのは跡部自身だっただろう。しかしその次くらいに驚いていたのはこの二人、向日と忍足だった。自分たちの勝利を確信しかけたその時、展開は思わぬ方向へと傾いてしまったのだから。 しかももまんざらでも無い様子で跡部の話を聞いているではないか。これはヤバイ、と二人は思いつつも、流石の向日も今度ばかりはどうすれば良いのか分からず、ただ口をポカンと開けて、その場で2人の様子を見るだけだった。
「好きになっちまった。俺と付き合ってくれねーか・・・・」
跡部は顔を真っ赤にして言った。今までは『俺の女になれ』のように命令のような言い方、誰よりも上を行っているという彼の自信からきたその態度で人々に接していた彼、ここで初めて成長したようだった。
彼の初めてのマトモな告白だったのではないだろうか。
暫くの沈黙が流れていた。風がびゅうと吹いて、の髪をなびかせていた。 はたっぷり沈黙した後、フッと小さく微笑んで言った。
「ありがとう・・・・」
そう言ってニッコリと笑って見せた。跡部はその笑いと言葉の意味をどう取れば良いのか分からず、しばらくじっとを見つめていた。
「私も・・・・も・・・・跡部景吾が好きです・・・・。」
紅潮した頬。 その顔で彼女はもう一度、優しく笑って見せた。
「ウ・・・ソ・・・だろ・・・!?」
向日は信じられないという様子で言った。
「マジかよ・・・!?」
跡部はというと、嬉しさと驚きの余り、ただただそこに立ち尽くしていた。 しかし、暫くしてハッと我に帰ると、『けっ・・・』と言いながら恥ずかしげに視線を逸らした。
「あ、でも私は浮気とかは許さないよ?」
「バーカ。ほとんど向日に番号消されちまったんだから今残ってる女なんかいねーよ・・・今は・・・お前だけだからよ・・・・」
跡部はポケットから取り出した携帯をいじりながら言った。
「そっか・・・フフッ・・向日くんも残念だったね・・・」
はクスクスと笑いながらそんな跡部を見ていた。
「なッ・・・!っていうか番号ほとんど消えてるからって・・・俺のせいじゃん!?」
まさに『身から出た錆』である。
「せやなー。嫌がらせが裏目に出てまったんやな、岳人・・・」
「バカゆーし!!そんなこと言ってる場合じゃねーだろ!?どーすんだよっ!!?」
妙に落ち着いた忍足に、向日が叫んだ。
しかし忍足はじっと目を閉じ、ポンと向日の肩を軽く叩くと、まるで父親が息子に語りかけるようかのような話し方で向日を言い聞かせた。
「岳人、あそこにはな、新しい愛が芽生えてるとこなんや。俺らが邪魔するとこなんて無いねん。ほら、お前にも見えるやろ?あの2人の間に咲く愛の花が・・・・。」
「見えねーよ!!」
すっかりその気になっていた忍足を、向日が一言で片付けた。
「ムードが無いやっちゃなぁ・・・・ まぁ岳人、しゃあないやん。今は2人を見守ったり。」
忍足も、全く悔しくない、と言ったら嘘になるだろう。しかし彼はそんな様子をなるべく外に出さないまま、岳人をなだめた。
「ちぇーっ!!」
向日はぷぅーっと頬を膨らませながら2人を渋々見守っていることにした。
「フフッ・・・あのね、私本当は前から跡部くんのこと好きだったよ。」
その日の帰り、跡部とは一緒に帰っていた。その帰り道でが突然跡部にそんなことを言い出したのだ。
「あぁ?どういうことだよ?」
「クス・・・だってあっさりOKしたらそれで終わっちゃうでしょ・・・」
跡部はすぐには答えず、一瞬足を止め、3秒ほど沈黙した後、また『あぁっ!?』と聞き返した。そんな跡部を見て、はまた小さく微笑んだ。
「フフッ、だってすぐにOKしちゃったら跡部にとって私は他の女の子と何ら変わらない、ただのオンナになっちゃうでしょ?それこそ、『体の関係』みたいな。」
「・・・・・。」
跡部は無言のまま、の話を聞いていた。
「そんなの嫌だからね。ちょっとくらい跡部に私を追わせてみた。」
そう言ってはまた悪戯っぽく笑った。
「てっめー・・・・」
跡部がそう言って振り返ろうとすると、
「結構すごいと思わない?私の演出。」
そう言ってクスクスとわらう。 そして。
ちゅ。
跡部の頬に軽くキスをした。ニッコリと笑って。跡部は真っ赤になって戸惑いを隠せない様子だった。 しかしそれはほんの一瞬のことだったようだ。
するとフッと鼻で笑って、
「バーカ。キスってのはこういうののこと言うんだよ。」
そう言っての顎を引き寄せ、唇を重ねた。
唇を割って舌を侵入させる、深い深いキスだった。
「俺様を本気にさせたんだからな。その罪は重いぜ?」
「お互い様でしょ・・・・」
END
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それぞれの思いを乗せて、恋は実っていくのです。
本当は下書きではこの後に跡部が向日&忍足に仕返しする話があったんですが、ここで終わらせておいた方がすんごい綺麗な話(私にとっては)になってくれるので終わらせておきました。
跡部の仕返し話は番外編のような感じでまたそのうち書こうかと。
岳人は黒いように見えて、最後はやっぱりお子様で、自分のやったことに足元救われるという感じで。
忍足は岳人に流されつつも最後は陽気にかっこよく、彼を宥める、という感じで。
書いてた本人は書きたいこと書けて満足した作品でした。(笑)
ここまで読んでくださった方、ありがとうございます。掲示板かメールで感想いただけるとすんごい嬉しいですvv
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