ファーストフード初体験

跡部景吾くんはとても面白い人です。
私はこの前のお弁当事件以来、そう思えて仕方ありません。

あの後も、私は時々彼と一緒にお弁当を食べました。
彼は大抵人目のつかないところにいます。
彼がお昼にいる場所ベスト10というメモ書きまで出来てしまいました。

跡部くんにコンビニのお弁当をあげるといつも『不味い』と言いながらも食べてくれてます。

コンビニのパンとかも、最近は美味しくなってるんだよ、って言うと
「庶民は良いな。こんなものが美味いと思えるんだからよ」
とか言ってきました。本当にムカつきます。
だけど何故か彼に庶民の味教育をしてあげたいと思ってしまう私が悲しいです。


そんな日々の続いたある日のことでした。
跡部くんが屋上にいて、私が彼の隣で一緒にお昼を食べようとしていた時のことです。


「また来たのかよ。」
「良いじゃん。跡部くん、色々文句言いながらも食べてるし。」
「好きで食べてるんじゃねぇよ。」
「素直じゃないなぁ。」
「ルセェ・・・・」

そう言いながらも、私は今朝コンビニで買ってきたクリームパンと半分、跡部くんに渡していました。
そして彼がふとこんなことを言い出したのです。


「なぁ・・・」
「ん?」
「なんで庶民はたった55円のモノが食えるんだ?」
「はぁ?」
一体何のことを言っているのか分からなくて、思わず聞き返してしまった。
「59円のハンバーガーなんて美味いハズねぇ。なんで庶民は美味くもないもん食うんだ?」
「そりゃ、安いからでしょ。」
59円のハンバーガーとかマックのことを言っているのだろうか・・・うん、多分そうだ。

「安くても美味くなきゃ意味ねぇだろ。」
「食べれないほどじゃないと思うけど。でもなんで?
 もしかして跡部くんマック行ったことないの?」
「・・・・・・・・・」


彼が黙りこむのは都合が悪くなった時。
ってか今この時代にマックに行ったことない人間がいるのか・・・!?マジかよっ!!??

「マジで行ったことないの?」
「俺様はそんな庶民の食べ物は食べねぇんだよ。」
「いやでもさ、彼女と一緒に行ったこととかないの?」
「言っただろ。俺は昼飯一緒に食ったのがお前が初めてなんだよ。」
「・・・・・マジ?絶対女遊びとかしてると思ってた。」
「部活の練習とかだって忙しいんだよ。休みの日も朝から練習あるし。
 んなヒマあるわけねーだろ。」

言われてみると確かにそうだと思いました。
なんか跡部くんって女遊びしまくってて毎日違う女の人と一緒に寝て(←過激発言)
ってイメージあったんだけど、考えてみたら部活の練習で疲れてるのに、
毎晩毎晩プレイなんてのは難しい気もする。

一体どこから彼はこんなにも『女遊びしてます』オーラを出しているんだろう?


「ねぇじゃあさ、一緒にマック行こうよ。」
「アーン?なんで俺様がんなとこ行かなきゃならねーんだよ。」
出たよ俺様!

しかも
アーンって・・・・・

すんごい色っぽいと思います。
少し分けてほしいくらいです
・・・って・・・何言ってんだろ私・・・


「女の子と付き合うことになった時マックくらい食べたことないとかっこ悪いよ。」
「マックばっかり食べてるヤツよりマシだと思うぜ?」
コイツ、殴りたいです。
「行こうよ。」
「嫌だ。」
「行きましょう。」
「嫌だ。」
「行きなさい。」
「またそれかよ。」

跡部くんは面倒くさそうに答えた。
「今日の帰り行こう。あたしがそのおぼっちゃま根性たたきなおしてあげる。」
「別にたたきなおしてくれなくていい。」
「いやマジでマックを知らないのは重症だと思うよ。」
「別に俺様は今まで15年間生きてきて、それに関して全く不自由は無かった。」

「跡部くんってロクなこと言わないよね・・・」
「お前には言われたくないぜ。」

跡部くんは一向にYESと言ってくれません。
だけど私あきらめません!


「今日の部活、何時に終わる?確かいつも7時頃だよね?7時半にあたし校門の前で待ってるから!」
「一人でよくベラベラ喋るな・・・・・」
「(コイツは・・・)分かったの?」
「お前に分かって俺に分からねーことなんてねーよ。
 但しその計画に従うかどうかは分からねぇけどな。」

どこからこうも毎度毎度憎まれ口が出るのか、不思議でなりません。

「とにかく待ってるから!
 すっぽかしたら『あの跡部様がコンビニの弁当を美味しそうに食べてた』って言いふらすよ?」
「んなこと言いふらしたらお前俺様のファンクラブに殴られるぜ。」


殴ってやりたかったです。
だけどここは一つ私が大人になって無視して屋上を去りました。

正直言って、跡部くんが来るかどうかは微妙だと思ってました。
多分7・8割がた来ないだろうと思いました。



だけど意外や意外!なんと跡部くんは来たんです。
7時半に私が校門へ行ってみると、なんとそこに立ってたのはあの紛れもなく跡部くん!

「遅ェよ。」
彼はびっくりして立ち止まった私に気付くと不機嫌そうな顔でそう言いました。
「オラ、さっさと来いよ。行くんだろ?」
「なんかすんごい意外・・・・」
私はそう呟きながら彼の隣を歩いて行った。
「あぁん?お前が来いっつったんだろ?」
「うん・・・でも来ないと思ってた?」
「じゃあ俺は帰るぜ?」
「駄目。」


そんな会話をしながら歩いていると、マックに着いていました。
跡部くんは『ここが庶民の溜まり場か』とか呟いてました。が、聞き流しておきました。


中に入って席に座って、まずは跡部くんにメニューを見せてあげました。
「けっどれも不味そうだな。俺ん家のコックならこの何倍も良いモン作るぜ。」
「はいはい。で、なんにするの?」
「一番高いモノ」
「いやさ、折角庶民の味の体験に来てるんだし、普通のハンバーガーとかにしようよ。」
「普通のハンバーガーは59円。」
「それが噂の59円のハンバーガーか・・・・」
「うんそうだよ。噂かどうかは知らないけど。あ、てりやきバーガーとかはほんとに美味しいよ。」
「じゃあそれ食ってやる。」
なんでこんなにエラそうなんだろう・・・・


結局二人ともてりやきを注文しました。(私が注文しに行った)
10分くらいでハンバーガーは出てきて、
跡部くんもついにファーストフード初体験を果たしたワケです。

「不味い。これのどこが美味いんだよ。」
「え?結構美味しいと思わない?」
私はハンバーガーを口に運びながら言った。
「庶民は良いな。」
「よく飽きないね、そのセリフ。」
「まぁな。」


しばらく沈黙が続きました。
男と女が二人で、マックのハンバーガーを食べながら無言なんて、凄く不自然な光景な気がします。

「なぁ。」
「なに?」
「なんでこの店はこんなに安いんだ?
 どう考えても、どんなに悪い材料使っても普通55円でハンバーガーは無理だ。」

「そりゃぁ何さ、ここのハンバーガーの肉は・・・・」

「どんな肉使ってんだ?」

私は少し間を置いた。


「そこら辺の花壇にいるミミズの肉を・・・・・」

「・・・・っ・・ゴホッ・・・・」

跡部くんは思いっきりむせてました。
私はそれが可笑しくて思わず腹を抱えて笑い出してしまいました。

「あっはっは・・・・!!跡部くん最高〜〜〜〜!!!」
「てめっ・・・嘘なのかよ・・・!!////」
「いや普通信じないでしょ。」
「殺ス・・・・」
「ぎゃー!あ、でもね、ミミズの肉の噂は本当だよ。」
「・・・・・マジかよ・・?」
「うん。私の友達のお姉ちゃんが食べてる時にね、
 ハンバーガーの中からすり潰しきれてないミミズの肉が出てきたんだって・・・・」
「・・・・・ウッ・・・・」
跡部くんは片手で口を覆いました。面白すぎですこの人。

「あはは・・!でも私たち普通に食べてるワケだし。大丈夫だよ。」
「俺様はお前ら庶民みたいに図太い根性してねーんだよ。」
「まぁ君の庶民の味に慣れておいた方が良いよ、跡部くん。」
「黙れ。」

こんな会話の後だったので、跡部くんは少し嫌そうにそのハンバーガーを見ていましたが、
結局全部食べていました。
それが無性に面白くて、私は思わず微笑んでしまっていました。


「さ、行くぜ。と・・・コレ、金な。」
「んあ?別に良いのに。」
彼が差し出したのはなんと1000円札。
てりやきバーガーの金額は、二人分合わせても500円もかからないのに。
「女に払わせる男がどこにいんだよ。」
「女遊びしてないくせにちゃんと知ってんだね。」
「黙れ。さっさと持っていけよ。」
「いや、そんなに高くないよ。」
流石にここで1000円受け取るワケにはいきません。いくらおぼっちゃまと言っても・・・
「良いから持っていけ。」

彼はお金を突き出す手を引っ込めようとはしない。
「釣りは・・・コレで良いからよ。」

ちゅ。

唇に触れた暖かいモノ。
初めて人の唇の感触を感じた。

「な、な、な・・・・!!」
「俺もお前に興味持ててきたみてーだぜ?有難く思えよ。」
驚く私をヨソに、彼は私の手のひらに無理やりお札を載せていきました。

「帰るぜ。」

そう言いながらマックを後にしていったのです。

やっぱり跡部くんは興味深い人です。
私も何時の間にか、彼に惹かれていたんですね。

言ってた通り、また続編なるものをつくってみた。
そして相も変わらず無駄な長さですな。なんでだろう・・・・
なんか跡部くんかっこいいんだか悪いんだか・・・

一応このシリーズのテーマは女遊びしてない跡部くんを書こう、ということなワケで。
だって彼は一応テニス部部長ですよ?監督からの信頼も大きいワケだし、
部活の練習だってキツイはずだから毎日毎日遊んでられるような人じゃないと思う。
部員たちからあれだけ信用されてる(?)のもあるしね。

にしても私・・・・
樺地を忘れてたことに
この話書いてる途中で気付きました・・・・。アホです・・・・