恋のハードル 11話

聖ルドルフ学院中男子寮のとある一室、
目にクマを作りながら机に向かい、何やら熱心に書き込んでいる少年が一人。


その名も観月はじめ。



「んー・・・どれもピンと来ませんね〜」

観月は手に持っていたペンと指先でくるりと回しながら考え込んでいた。
彼の目の前に広げられたノートには大きな桃色の字でこう書かれていた。

『vvとの愛の修復プランvv』

(この前見たところ、はまだそれほど僕を嫌ってはいないはずです。
 となれば、まずは作戦ですよね。
 この前のように完璧な作戦での愛を取り戻さなくては。
 放っておいたら木更津なんか
 いつ何しでかすか分かったもんじゃありませんから・・・)


しかし現実はそう甘くはない。
いくら観月と言えども、『愛の修復プラン』などというものは
そうそう簡単に出来るものではない。


(んー・・・やはり薬品を使いましょうか・・・ほれ薬とか。
 あれは割と作りやすいですからね。それとも痺れ薬で監禁しますかね〜
 あ、それはますます嫌われる危険性もあってマズイですね。
 それにどの薬品もまだ未完成ですから・・・・)


普通に聞けばどう考えても恐ろしい考えなのだが、
腹黒人間に取り囲まれたルドルフの者はすでに感覚は麻痺しているのだ。



(未完成・・・待てよ・・・・そうです!良い実験材料がいるじゃないですか!!)

観月はとっさに何か思いついたように立ち上がった。
すると普段より少し大きめの声で叫んでみた。

「あーぁ、誰か手伝ってほしいものですねー・・・」

観月がそう叫ぶとドドドという足音とともに観月の部屋の扉が開いた。

(んふっ来ましたね)

「観月さん!呼びましたか!!?」

なんとその扉の先に立っていたのは
観月の役に立てるのだと心を弾ませて目を輝かせている裕太の姿だった。

「待ってましたよ(我が下僕)裕太くん。
 実は試してもらいたい飲み物があるんです。」

「えぇっ!観月さんの手作りですか!!?」

「ええ。どんなものか、感想を聞かせていただきたいのです。」
「み、観月さんのためなら俺は何でもするッス!」

「では少し待っててくださいね。」

そう言うと観月は台所へ行ってチャカチャカとなにやら怪しげな音を立てている。
何か薬品を調合しているようだ。



「出来ましたよ。」
観月の手のコップの中には深緑色をしたどろどろの液体があった。

「うわぁ!これが観月さんんお手作りドリンクですか!?美味そうッスね!!」
流石不二周助の弟。

「えぇ。ひとつ試してみてください。」
「はい!それじゃ早速!!」




ゴクリ

「う、美味いッスね観月さん!!これ何で作ってるんですか!!?」
「お、美味しいんですか・・・?材料は
塩酸やら硫黄やら色々ですよ。」

普通死にますよ、それ。

「ところで裕太くん、体の方はなんともありませんか?」
「え?なんか観月さんの飲み物飲んで元気になったッスよ!
 ほらこのとーり!!」

そう言ってその場でぴょんぴょん飛び上がろうとしたようだ。


「あ、あれ?」


足が上がらないらしい。

「な、なんか足が動かないッス。」
「そうですか・・・・・」
それだけ言い残すと観月は部屋を出て行ってしまった。


「え、あの・・・ちょっと観月さーん!俺どうすれば良いんスかー?」

足は動けないので裕太は一生懸命手を
バタバタと振りながら観月の後姿に向かって叫んだ。

しかし観月は気にもとめていない。

(おかしいですねー・・・
 確かに痺れ薬のつもりで作ったのですが・・・足だけが動かなくなるなんて。
 やはりあそこで入れた
リン酸がよくなかったですかね・・・
 いや、もしかしたら先日こっそり不二家から仕入れた
 
不二家特製の秘伝調味料(桃城の「お料理は愛を込めて」参照)
 が悪かったのかも・・・)

手を額に当て、そんなことを考えながら観月は寮の廊下を歩いていた。



「はっじめちゃーんVv」

不意に後ろから観月の首に抱き付いてきた手。

「どうかなさいましたか麗華さん。」
うんざりした口調で観月が言った。

「エヘッvはじめちゃんに会いたくて、来ちゃったvv」
「『来ちゃった』じゃないでしょう。ここは男子寮ですよ。
 貴方の他にこんなところへ来てる女子がいますか?」

「いるよ。ほら。」

そう言って麗華は自分の目の前の二人組を指差した。
さん今日は楽しかったね。」
「うん、またお話出来ると嬉しいわvv」

そこにいたのは木更津の部屋からにこにことご機嫌に出てきただった。

っ!何してるんですか!!」

「あら観月、ごきげんよう。」
にっこりと微笑んでが言った。


「木更津!に手出したら承知しませんよ!」
「ウルサイなぁ。もうさんは観月の物じゃないんだよ。」
「だからって貴方のものでもないでしょう。」


「麗華ちゃんもこんにちは。二人とも昼間から仲が良さそうなことで。」
にこにこと笑顔を絶やさないままが言う。

「エヘヘーvでしょぉーvv聞いたーはじめちゃん?
 あたしたち仲良いんだってぇVv」


観月は木更津と、は麗華と
それぞれ挨拶代わりとでも言うようにバチバチと火花を散らす。




だが、観月はハッと何かに気付いたように自分を抑えた。

「残念ですが、今日は貴方がたにかまってる暇はないのですよ。また今度。」

そう言って観月はくるりと向きを変え、自分の部屋へと向かった。

そう、今の彼は木更津たちと争う前に、
まずはその計画、即ち『愛の修復プラン』を立てるのが先決なのだ。

しかしその言葉にカチンと来てしまったのが、
最近不二のところへ黒魔術を習いに行っていると噂のだ。

「ふーん、そう・・・・聞いた木更津くん?
 私たちなんかとかまってる暇はないんだって。
 じゃあ私たち、もう少しお話しましょうか?」

にっこりと、毒の笑顔全開になったは観月にも聞こえる大きな声で言った。

(我慢です・・・今に見てなさい、、木更津・・・・)

「そうだねv」

というわけで観月のプランを考える間にも木更津とはイチャつくようだ。

麗華はしばらく観月にべっとりだったが、
観月の説得の末、ようやく自分の部屋へ帰ってくれた。



部屋に入るとそこには裕太がいた。動けないのだから当然だが。

「あ、観月さんお帰りなさい!」
観月を恨む様子もなく相変わらずだ。可愛い子じゃのう。

「ああ、裕太くん。これを飲めば動けるはずですよ。」
そう言って観月は解毒剤入りのコップを裕太に渡した。

「はい!」
裕太はそれを飲み干すと体が動くようになり、部屋の中をはしゃぎまわった。

「裕太くん。また用がある時には呼びますから、今日のところは帰ってください。」
「はい!俺観月さんのためなら地の果てまでへも行きます!」
「僕はそんなところにいたくはないですがね。」

そんな会話で終わり、裕太は観月の部屋を後にした。



そんな時、ふとポツンという音が聞こえてきた。
雨が振り出したんだ。
雨は次第に強くなっていった。

(雨・・・・ですか・・・・・)
その時観月の頭に最高のアイディアが浮かんだ。
観月はものすごいことを閃いたようにその場でポンと手を叩いた。

「雨・・・!そうです!これですよ!!!」
そう叫ぶと観月はタタッと走り、
部屋の隅のテーブルに置いてあった新聞を手に取った。

(次の雨の日は・・・と・・・あ、ありました。
 来週の日曜日ですね。んふっ丁度良い期間です。)

次の雨の日までは一週間後、観月はそれを調べると、
先ほど書いていたノートに向かって鉛筆を走らせた。


「出来ました!完成ですよ!『愛の修復プラン』の完成ですよ!!」
出来上がった計画ノートを両手で高く掲げて観月が言った。



さぁ、これからが本番ですよ!


第12話へ




哀れ裕太・・・・
でも裕太はこの後の展開で(観月の下僕として)
とても重要な役割になる(予定)ですので。
そして雨だ・・・雨は深司の専門ネタのはずなのにっ!!(何)
まぁ良いんですよ、ようやくラストがハッキリ決まりましたから。
皆様お待たせして申し訳ありません。
あと2〜3話で完結出来ると思います。
そうなったらまた新しい連載始めます、多分。