織姫さまの気持ち
「ん・・ん〜・・・」
7月7日朝6時、は今日もいつもの部屋で目を覚ました。
いつもの窓から見えるいつもの景色、いつもと何ら変わらないように思えた。
しかし今日はいつもとは違う。
今日は一年に一度、決して逃すことの出来ない大チャンスなのだ。
「今日は7月7日・・・年に一度だけあの人に会える日だわ・・・」
ベッドから起き上がり、にこりと微笑みながら浮かれ気分で呟いていた。
しばらくそのことを考えた後、ベッドから立って着替え・洗面としたくを始めた。
「今日は一年に一回しか無い日なのよ!絶対無駄になんて出来ないわ!」
鏡の前に座ったは鏡に映った自分の像に向かって言った。
「早く時間にならないかなー」
わくわく胸を躍らせながらは髪をとかしていた。
にとって今日の時間は毎日の倍以上長く感じられた。
仕事をしていても、5分置きくらいに時計を見てしまう。
楽しみで楽しみで仕方なかった。
そんな気持ちでいっぱいの中、いよいよの待っていた時間となった。
「あぁ、もう出掛ける時間だわ・・!やっとあの人に会えるんだわ・・・v」
そう思うとは嬉しさで胸が張り裂けそうになった。
そしては扉を開け、外へと踏み出し、天の川へと向かった。
天の川からは白鳥に乗ってあの人の元へ・・・と言いたいとこだが、
残念ながら白鳥ではなくアヒルに乗っていく。
は天の川の川岸に着くとキョロキョロと辺りを見渡した。
「あ、あれ・・・?アヒルの柳沢さん・・・どうしちゃったのかしら?
毎年この時間ならここにいるのに・・・」
そう呟きながらもは周りを見回してみる。やはりアヒルの姿は見えない。
「どうしましょう・・・・
あ、でもきっとアヒルさんだって今ちょっといないだけよね・・
すぐ戻ってくるわ・・・・」
そう自分に言い聞かせてその場で待つことにした。
その場に腰を下ろして時々周りを探しながら
そこにしばらく座り込んでアヒルを待っていた。
「困ったわ・・・柳沢さんがいないと私あのヒトに会えないわ・・・」
そう考えるとは今にもなきそうな顔になった。
とそこへ、意外な人物があらわれる。
「くすくす、ねぇ君一人?」
「え?い、今は一人ですけど・・・・・」
「どこか行かない?」
「いえ・・・私今から予定がありますので・・・・」
そう言いながらはゆっくりと振り返ってみた。
そこには前髪の長い少年が立っていた。
「こんなとこに座ってるのに?・・・・って君、もしかしてさん?」
「え?えぇ、そうですけど。なぜ私の名前をご存知なのですか?」
「くすくす、君、この辺じゃ評判だよ。あ、そういえば今日は7月7日か。
確か君って年に一度だけ、
今日のこの日に天の川の向こう側の観月のとこに行けるんだよね。」
「まぁ、そこまでご存知でしたの・・・!」
はこのあたりは絶世の美少女と評判だった。気付いていないのは本人だけで。
「観月のところへは行かないの?」
「えぇ、これからはじめさんのところに行こうとしていたのですが、
この天の川を越えるにはアヒルの柳沢さんがいないといけないんです・・・・」
「柳沢?あぁ、アイツなら今食中毒で寝込んでるよ。」
「しょ、食中毒!!?柳沢さん何食べたんですか!!?」
「アイツ自分は人間だと思い込んでるから人間と同じ物食べて、
しかも意地はって得体の知れない物まで食べてるから・・・」
「は、はぁ・・・・」
何というアヒルだ!とは心の中で思った。
「そっかぁ・・・そういえば君ってあいつがいないと観月に会えないんだっけ・・・」
「そうなの・・・困ったわ・・・」
「うん・・・じゃあさ、いっそ観月は諦めて僕にしなよ。」
「はい?」
突然何を言い出すんだこの少年は、と思った。
「僕ならこっち側に住んでるからいつでも会えるしさ、ね・・・・?」
「いえ・・・でもそれは・・・・・・」
あまりに突然の発言にどう対応すれば良いか分からない。
「あ、言い忘れてたけど僕、木更津ね。」
「木更津さん・・・あの・・・お気持ちは嬉しいのですが
私ははじめさんに会いに行かなくては・・・・」
「あ、さんは観月のこと名前で呼んでるの?じゃあ僕も淳で良いよ。」
「(人の話を聞けよコラ)いやそういう問題ではなくて・・・・・」
とんでもない人物につかまってしまった。
こうしている間にも、もう観月との約束の時間は10分も過ぎていた。
(どうしましょう!天の川は深くて泳ぐことはできないわ!
それじゃあアヒルさんなしにどうやって渡れば・・・・
このままここにいたらこの木更津さんって人が何言い出すかわからないし・・・・
あぁ、はじめさん・・・・助けて・・・・・!!)
「ねぇ、これからどこかへ夕食食べに行こうよ。」
「私ははじめさんとのお約束が・・・・・」
と平行線なやり取りが続くそんな時だった。
「ありゃ?もしかしてさんじゃにゃい?」
なんと!そこを通りかかったのは川を泳いでいる世にも珍しい猫!!
「え?あ、貴方は・・・?」
「ん、俺?俺は英二っていうんだけど・・・さんこんなとこで何してるにゃ?」
それはこっちが聞きたいよ、と言いたかった。
「いえ・・・私は・・・・・」
「今日って向こう側で観月が待ってるんじゃにゃい?」
「え、えぇ・・・そうなんですけど向こう側へ渡れなくて困っていたことろなんです。」
「渡れにゃい?」
「はい。渡し舟役のアヒルさんがいなくて・・・・」
「俺が乗してってあげようかにゃ?」
「ほ、本当ですか!!?」
今時やさしい猫がいたもんだ。
「ちょっと待ってよ。僕のさんをどこへ連れてく気?」
「えぇっ!?さんは観月のじゃなかったの!!?」
「(君も間に受けないでくれよ猫くん・・・・)」
「あの、木更津さん・・・あなたとはまたの機会に・・・
私ははじめさんのところへ行かなくては・・・」
そう言うとは猫の方へと駆け寄った。
「ちぇっ・・・後であの猫には何してやろうかな・・・・
もう少しで上手くいきそうだったのに。(そうか?)」
猫は駆け寄ってきたの向かって言った。
「じゃあさん、俺の背中に乗るにゃ。」
「はい。あの・・・ごめんなさいね・・・・?」
「気にしなくて良いにゃ♪
(観月のとこへ行かせるのは悔しいけどさんを背中に乗せられるにゃvv)」
そんなことを考えていた菊丸の顔は一瞬にやけた。
「(げっ・・・なんかこの猫今ちょっと笑ってなかった!!?
大丈夫かな・・・・)そ、そう?ありがとう・・・・」
二人はそれぞれの想いを胸に抱きながら川を渡って行った。
「着いたにゃvv(さんと川の上を・・・・にゃ〜〜!!また乗せたいにゃ〜〜vv)」
「あ、ありがと猫くん・・・v(良かった・・・無事に着けたわ・・・・・)」
は苦笑を浮かべながら言った。
そして岸へとあがったはまたキョロキョロと辺りを見渡す。
観月がいないかどうか探していた。
「はじめさんっ!!!!」
川岸の大きな一本の木にもたれかかって本を読んでいる少年、
彼こそがの会いたかった観月はじめだった。
の声に気付いた観月はハッと本から顔をあげて
を見つけるなりにっこりと微笑んだ。
そんな観月に駆け寄り、は抱きついた。
「はじめさん・・・遅れてしまってごめんなさい・・・・」
観月の服をギュッと掴みながらが言った。
「んふっ、柳沢が食中毒になったと聞いた時には驚きましたよ。心配しました。」
「でもその割にははじめさん落ち着いて本読んでましたよ・・・?」
ちょっと寂しい顔をしてが言った。
「えぇ。僕のデータによればさんは
そのくらいで僕との約束を破るような方ではありませんから。」
「はじめさん・・・・・」
そう言うとはもう一度観月に抱きついた。
「はじめさん、会いたかったです・・・・・・」
「僕もですよ、・・・1年ぶりですものね。」
二人はそのままずっと抱きしめあっていた。
「こんなたまにしか会えないのって残念ですね・・・・」
「えぇ・・・・・」
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「・・・っ・・・っ・・・・!」
「ふえ・・・・?」
「いつまで寝てるんですか。電車着いちゃいますよ。」
「え・・・あ・・・夢・・・か・・・・・」
「何寝ぼけてるんですか。
一緒に七夕のお祭り見に行こうと言ったのはでしょう。」
「あ・・・・」
そう、聖ルドルフの寮で生活しているはじめとは
こんな感じでたまにしか会えない。一応幼馴染なのだが。
だからせっかくだから近くでやってる七夕祭りを見に行こうと言って
一緒に電車に乗ったのだ。
その中で私はぐっすりと寝てしまったらしい。
「そっか・・・七夕・・・だもんね・・・・・」
「どうかしたんですか、改まって。」
「うん。私ね、夢見たんだ。」
「夢・・・ですか?」
「そうだよ。私が織姫で、はじめは彦星。」
そう言って私は夢の内容を話した。
「んふっ、そういうのがの理想なんですか?
それにしても木更津・・・明日は練習メニューは倍ですね。」
「でもさ、織姫と彦星って、なんか私たちに似てると思わない?」
「僕たちにですか?」
「うん。昔はいつも一緒だったけど、
今ははじめは寮生だからたまにしか会えないでしょ。」
「そうですね・・・
でも離れていても僕は彦星が織姫を愛する以上にのことが好きですよ。」
そう言ってはじめは私の頬に軽くキスしてくれた。
ほんの短い電車の中の時間・・・このままずっとこうしていたい・・・・・
END
長い・・・・なんかかなり長くなってまった・・・・・・(汗)
っていうか始めに言っておくと本物の七夕話は織姫が彦星に会いに行くのではなく、
彦星が織姫に会いにいくんです、たしか・・・・・・
でもそうすると木更津のナンパシーンが作れないので・・・・(何)
結構楽しかったです、コレ書いてて・・・・・
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