花言葉にご用心 第2花
ピッ
「一冊で860円になります。」
「はーい。えっと・・・1000円でおつりお願いしますー。」
財布を覗き込んだ私はそこから1000円札を取り出して店員さんに渡した。
「はい。140円のお返しになります。ありがとうございました。」
愛想の良い店員さんでにっこりと(黒くない)笑顔で私を店から送り出してくれた。
さて、店から出てきた私は先ほど買ったものをさっそく開けてみる。
袋に入っているのは一冊の本。
家へと道を歩きながらそれを取り出して私は表紙を少しじっと見てみた。
手のひらより一回り大きいサイズの小さなポケットブック。だがとても分厚い。
その表紙には綺麗な花畑の写真が大きく載っている。本当に綺麗だ。
そしてその写真の上には花のような可愛いポップな文字でこう書かれている。
『〜ポケットブックシリーズD〜
手軽にひける花言葉大辞典』
さらに、本に帯にはこんな宣伝言葉が書かれていた。
『いつでも持ち運べていつでもひける!
携帯サイズで小さいのに中身はたっぷり!
プレゼントのお花を選ぶ時に花言葉に気付かず
とんでもない誤解を受けたことはありませんか?
そんな貴方もこれがあれば安心です!』
この本が今の私以外の誰のためにあるのだろうか。
この宣伝言葉につられてついつい買ってしまった。
私は早速この前不二くんの誤解を招く引き金となったファレなんとかという花をひいてみた。
「あ、、、でも名前知らなきゃひけないじゃん・・・・!!」
いまさら何を・・・・
「ま、いいや!とりあえず’ファレ’でひけばあるでしょ。」
思った通り、’ファレ’で始まる花は一つしか無かった。
「えーっと・・・『ファレノプシス 蘭科』・・・あっ・・・花言葉って花の色によって違うんだー・・・・」
花言葉について皆無だった私は驚いてしまった。
「えっと、たしかこの前のはピンク色だったよね。
ピンクの花言葉はっと・・・・・『あなたを愛します』・・・・・・」
はぁ・・・私はこんなものを不二くんに渡してしまったわけか・・・・
(待てよ・・・?)
私の中である考えが浮かんだ。
あの二人は花言葉のせいでこんな勘違いをしている。
ならば自分も花言葉で断れば良い。
あんな風に告白めいた花言葉の花があるなら嫌いなヤツへ渡す花だってあるはずだ!と思った。
幸いなことにこの辞典は花の名前からもひけるが花言葉からも探せる高級品だった。
「よし!何としてでも・・・まずは観月からね。私から離してやるわ!!」
そう決心すると私は本のページをパラパラとめくり始めた。
そしてそこに調度良いものを見つけた
「あ、『嫌いな人へ送る花言葉の花』だって!コレよコレ!!」
そう思った私はそのコーナーに目を通した。
「んー・・・『アジサイ』・・・花言葉は『ほらふき』と『あなたは冷たい』かー・・・
アジサイなら今季節だから安いし、これでいくか!!」
この判断が後にとんでもないことになろうとは思わなかった。
コレだ!と思った私は一目散に花屋の方へと走って行った。
そして花屋に飛び込むや否や、店員さんに叫ぶようにして言った。
「すみません!!!」
血相変えた私の表情に一瞬驚いた店員さんだったがすぐに普通に戻ったようだ。
「は、はい。な、なにかお探しですか?」
苦笑いをしながら私に聞いてくれた。
「はい。あじさいのお花が欲しいんです。」
少し落ち着きを取り戻した私は普段の口調で言った。
「あじさいですね。あちらのなんかどうでしょう?」
店員さんはにっこりと笑って棚の上におかれたあじさいを指差した。
そこにあったのは青色と紫色の花が一緒になってコーティングされた綺麗なアジサイの鉢だった。
(うっわーv綺麗〜vvあ、でもこれ観月にあげるのよね。。あんな綺麗なの勿体無いし。)
「あ、いえ、あんな綺麗なのじゃなくてもっと安物で良いんです。」
花を買いにきた女の子のセリフとは思えない。
「は、はぁ・・・・?」
さすがの店員さんも呆れ顔で言った。
「あ、いえ・・・その・・・・そんなに凝ったのじゃなくて良いんです。
1本か2本くらいの安物が良いんです。」
「(この子本当に花買いに来たの・・・?)え・・・あ、それでしたらコレを・・・・」
そう言って店員さんはアジサイを一本取って私にくれた。
大きさも量も丁度いい。
「おねーさん、これいくらですか?」
「えーっと・・・・」
そう言いながらお姉さんはレジへと歩いて行って計算し始めた。
とその時
「さんv」
突然背後から声が聞こえた。
「ぎゃあああぁっ!」
あまりに驚いた私は思わず声を張り上げてしまった。
振り返ってみるとそこには少しばかり息をきらせた観月が私の声に驚いたように立っていた。
店員さんも一瞬手が止まっていたようだ。
「そんなに驚くことないでしょう、んふっv」
「なな、なんであんたがここにいるのよ!!」
「さんがこの花屋に入っていくのが見えたので走ってきたんです。」
「ストーカーか、あんたは・・・あ、っていうかストーカーだね。」
「失礼ですね。こんなところで会えるなんてやっぱり愛の力ですねv」
「アホ!」
「ところで今日は花屋にどんなご用事ですか?また僕へのプレゼントですか?」
観月余裕の笑顔で話していた。
「あー、そうそう。観月にあげるための花買ってたとこ。」
「んふっ、感激ですねv」
「あの、お会計終わりましたけど。」
私たちのアホみたいな会話を呆れ顔でイライラしながら聞いていたのは店員さん。
そりゃ店ん中であんな会話されりゃイライラもするわな・・・・・
「あ、す、すみません!!」
私は慌ててお金を払って花を受け取った。
「観月、とりあえず外出ようよ・・・・お店に迷惑・・・・」
そう言って私は観月を店から押し出した。
「ところでさんv」
「はいはい分かってますってば・・・・」
店から出るなりそう言った観月に私は呆れ顔で先ほど買ったアジサイの花を渡した。
「はい、これ。」
花を受け取った観月はちょっと驚いた顔をしてしばらくその花を悲しそうに見ていた。
へっ、これで観月のストーカーから開放されるぜ。
「さん・・・・・」
「んじゃ、そういうことだから今度は・・・・」
「なんでもっと早く言ってくれなかったんですか・・・・・」
「へ?もっと早くって・・・私は随分前から拒否ってたつもり・・・・」
「嗚呼、本当にすみませんでした・・・僕はそんなつもりは全く無かったのですが・・・・」
「(ウソだろ!!?モロにストーカーやん!)は、はぁ・・・・」
「全然気付きませんでしたよ。これからは気をつけますね。」
「は、はい・・・・(分かってんのかこの人・・・?)」
「まさかあなたがそんなに寂しかったなんて・・・・」
「はぁ!?」
何を言い出すんだこの人は。
「だって『あなたは冷たい』だなんて・・・僕は全然そんなつもりは無かったんですが
あなたはもっとかまってほしかったんですね。
分かりました。明日からは帰りの迎えだけでなく朝の送りも僕が・・・」
「やらんでいい!っていうか私が言いたかったのはそういうことじゃなくて・・・・・」
「僕もデータ収集で忙しい時が多かったですから・・・・さんはそんなに寂しかったなんて・・・・」
「だから違っ・・・・」
「これからはもうあなたにこんな思いをさせたりはしませんからね!!」
「いやこんな思いをさせたくなかったら私から離れてください。」
「さん、僕は誰よりもあなたが好きなんですよ。」
「人の話を聞けぃ!」
第3話へ
花言葉の2話・・・・
っていうかあんなポケットブックがあったら欲しいですよ・・・・・便利・・・・
それからアジサイって花屋で売ってます?私よく知らないものですから・・・・(泣)