恋の駆け引き 第6話
RRRR・・・・
「うわ、また電話だ。」
そう言うと向日は音を出している携帯を手にとった。横にいる忍足は『ホンマ今日で何回目やろ・・・?』と言う。
「もしもし?」
向日が出ると、電話の向こうでは女性の声がした。
『あ、もしもし景吾ぉvv今日、今からダメかなぁ・・・なんて・・・vvv///』
女の声はとてもわくわくしたような、ドキドキしたような声だった。
「あーダメダメ。跡部はたぶん無理だよ。」
向日は電話の向こうにいる女に向かって話す。そして当然ながら、相手の女は自分の思っていた人物と違う声に驚いていた。
『え・・・?ちょっと・・・景吾じゃないの!?誰よアンタ!?』
「俺?俺は跡部の友達だけどさ。跡部のヤツ、今狙ってる女がいるからこいつらはいらねぇ、って言って俺に女のメモリが入った携帯よこしてきたんだよ。」
『う・・・そ・・・。景吾がそんな・・・・!!』
その女は涙ぐんだ声でしゃくりあげると、静かに電話を切った。
「へっへ〜ん!跡部のヤツ、ざまーみやがれ!!」
「あんなぁ岳人・・・後でどんなとばっちりが来るか・・・・」
「良んだよ!賭けの期間はあと5日だぜ!賭けが終わった後は跡部は俺らの言いなりになってるんだからな!くーっ!楽しみだぜ!!」
「そない上手くいくもんかいな・・・。」
「さーてとっ!今かかってきた女の電話番号はメモリから消しておいてやろっと!跡部が間違えて電話したりすることがあったらいけねーもんな!俺って良いヤツだよなー、ゆーしー!!」
「ノーコメントやな・・・・」
跡部から携帯を奪った次の日の夜、向日と忍足は寮の部屋で次から次に跡部の携帯にかかってくる女からの電話。そしてその女たちをことごとく断っては、そのメモリから消して、そんな作業を延々を繰り返していた。
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なんで俺のモノにならねぇんだよ!!!なんで俺様が、あんなただ一人の女に真剣にならなきゃいけねぇんだよ!!!
「おい樺地・・・」
跡部は突然口を開いたかと思うと、隣にいた樺地に話し掛ける。
「・・・ウス・・・・」
「お前は・・・どう思う・・・?」
「ウス・・・・」
「バーカ。そうじゃねぇだろ。」
「ウ、ウス・・・。」
「なっ・・・///お前、何言ってんだよ!!」
「ウス・・・・?」
「フフン。俺様にできねーことなんてねーからな。」
「ウス・・・・。」
「バ、バカッ・・・!んなこと出来るかッ!!」
私たち一般人には到底理解出来ない会話なのだが、彼らはこれで意思が通じ合っているというのだから驚きである。というよりすごい。
どうする、俺・・・・?
とりあえずもう一度アイツを呼び出して口説いてやる・・・・。他に方法なんかねー・・・!!口で誘うしかねーんだよ!!!
「おい・・・。」
次の日、跡部はまたに声を掛けた。
は『はぁ・・・』とため息をついた。
「今日は何?」
「ちょっと来い。」
跡部はの腕を掴んで無理矢理引っ張って行った。
「緊急事態発生!緊急事態発生!」
二人の様子を見ていた向日が教室へ駆け込んできて、忍足に話し掛ける。
「(またか・・・)どないしたん、岳人・・・?」
「の危機だぜ、ゆうし!!」
「今日はどないしたん?」
「跡部が嫌がるを無理矢理人気の無いところに連れ込んで・・・・」
「(どこまでホンマなんやろ・・・)そーか。そら大変やなー。」
「『大変やなー』なんて関西弁でのんびり話してる場合じゃないだろ、ゆうし!俺たちの出番なんだぜ!?」
「(アニメヒーローみたいやな)で、今日はどうする気や?」
「わかんねぇ!とにかく邪魔する!」
そう言って向日は忍足の手を引いてまた二人の後を追った。
「(またこのパターンかいな・・・・芸が無いな・・・・)」
「俺と付き合え。」
しばらくを引っ張って行った跡部は言った。
「嫌だって言ってんじゃん。」
は顔中に嫌だ、というのを浮かべて言った。跡部は何を言えば良いのか分からず、とりあえず押しで勝負を決めようと思った。それしかないと思った。
「ウルセェ!とにかく付き合えよ!!」
バンッと音が響いて、跡部はを壁に押し付けていた。
「痛った・・・やめてよ、もう!!」
跡部の腕の中に収まってしまっていたは彼の腕をグイを押しのけて抵抗してきた。ほんの少しだけ、その仕草に跡部はそそられてしまった。
「うわーーーーー!!跡部がを襲ってる〜〜〜〜!!!」
「な・・・ッ!」
「向日くん・・・・?」
陰で見ていた向日が叫んだ。彼の声にと跡部が口々に言った。
「てめっ・・・向日!携帯返せ!!」
第一声がそれかよ跡部くん。
「ケータイ?ってか跡部一体女何人いるんだ?昨日だけでも20件以上は電話があったぜー!」
「ルセェ!勝手に人の携帯覗きやがって!」
「うっわー!!跡部、こんなに女がいるのにを襲おうとしてるなんて!」
そう言うと向日は上ずった裏声で『私というものがありながら!』と女の真似をするかのように言ってみせた。おそらく、昨日電話があった女のうちの一人が言っていたセリフであろう。
「いい加減にしとけよ向日!てめーのせいで俺は今朝から10人以上ごちゃごちゃ言われるハメになったんだからな!!!」
「それは跡部、いっぱい女つくってるアンタが悪いと思う。」
今まで黙っていたが不意につっこんだ。
「俺もそう思う。」
向日も加わった。
「黙れ!!」
二人から責められて一瞬言葉に詰まった跡部が叫んだ。
「、こんな跡部なんか放っといて逃げようぜ!」
「うーん・・・・。」
は作り笑いで向日に笑いかけていた。そんなの腕をグイと引っ張って、向日はスタスタと歩き始めた。
「お、おい向日!てめー俺の女に手出してるんじゃねー!!」
「「いつから跡部の女になったの(んだよ)。」」
振り返った二人の声があまりにぴったりと息が合っていたので、跡部ともあろうものが一瞬とは言え引いてしまった。
「向日!てめーは人の邪魔するのもいい加減に・・・・・」
RRRRRRR・・・・
跡部の話の途中で、携帯が鳴り出した。跡部の携帯だ。
「うっわー!また跡部の携帯だー!」
そう言いながら向日は電話を自分のポケットから取り出し、耳へあてた。
「もしもし・・・・?」
「・・・・・。」
は無言のまま、というより何を言えば良いか分からなかったので、とりあえず黙ったまま、向日の行動を見ていることにしていた。半ば呆れ顔で。
「おいっ!何勝手に出てんだよっ!」
そんな跡部の声は無視して向日は話し続ける。
またしても始まりそうな二人のくだらないやり取りを考えると、またはため息をついた。
「えー?何、木村さんだっけ?あ、いや俺は景吾じゃねぇってば。」
『ちょっと、アナタ誰なのよ!?景吾は!?』
電話からはうっすらと女の声が漏れてくる。
「跡部はな、いいか、落ち着いて聞けよ。今、別のある女を口説くのに忙しいんだ。それで跡部のヤツ、今いる女はいらねぇ、って言って親友の俺にこの携帯を渡して行きやがったんだ・・・・」
向日は語りかけるように、しみじみとその女に話した。
「おい!誰が親友だよ誰が!!」
おいおい。つっこむところはそこじゃないだろう、跡部くん。と言いたいところだが、当の本人はそんなの全く気にする様子もなく、向日の手から携帯を取り返そうと腕を振り上げていた。
しかし流石は向日岳人。
だてにアクロバ王として跳んでいるようでは無いようです。
振り降りてきて跡部の腕をひらりと身軽に交わし、くるりと宙返りして着地する。そして跡部の方へ向き直ると、勝利を示すかのようにニヤリと笑った。
「ひっでーヤツだよなー!親友の俺が言うのも変かもしれねーけど、別れた方が良いと思うんだよ、俺・・・・いや、ホントごめんな・・・・?」
電話からは、女がひっくひっくと泣く声が聞こえてきた。
『う、ううん・・・君が謝ることじゃないから・・・・えーっと・・・・』
「あ、俺向日岳人な!よろしくー!」
悪魔で善人ぶろうとする向日の態度に対して、時間が経つにつれて跡部の怒りメーターは確実に着々と上昇していた。
「そんなに泣くなよ、木村さん。親友の俺から見てても跡部のあの性格や態度はどうにかならないもんかなー、って思うことがあるぜ?」
『うん・・・・ありがとう向日くん。じゃあバイバイ。」
そう言って、電話は切れたようだ。
「ふぅー!喜べ、跡部!!お前に代わって俺が代わりに女を振っといてやった!」
「・・・・どうやらてめーは本気で自分の寿命と縮めてーみてーだな・・・」
怒りのオーラを纏った跡部には、ゴゴゴ・・・・という効果音がついているようだった。
「感謝しろ、跡部!さっきの女の番号は俺が消しておいてやる!!」
向日、強し。
「てっめー・・・・」
「さーてとっ!そろそろ授業が始まるな!教室へ行かなきゃ駄目だぞ、跡部!!」
「待ちやがれっ!!」
スタスタと歩き出そうとする向日の肩を掴んで、跡部が怒鳴った。しかし、その跡部の手を振り払うと、向日はニコーッと笑って楽しそうに言った。
「そういえばさっき俺たちが話してる間にのヤツ、自分の教室戻っちゃったみたいだぜ?跡部、残念だったなー!!」
最後にもう一度にーっこりと笑うと、向日は去って行った。
「な・・・なんだと・・・!?っ・・・!!」
ハッとして辺りを見回す跡部。だが、当然ながらそこにの姿は影も形も無かった。
「アイツら・・・揃って俺様を馬鹿にしやがって・・・・・!!」
賭けの終了まであと3日。どうする跡部・・・?
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黒岳人全開ですな。(笑)
でも大分終わりまでのメドがたってきました!!(そうか?)
あと2〜3話で完結しますので!!
それにしてもこの話は向日ドリームに変えた方が良いんじゃないかと思うくらい跡部が出てませんな・・・(笑)
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