恋の駆け引き 第7話

 例の携帯事件の翌日の教室での出来事だった。
 「それでな、そしたらその女泣きながら『ありがとう、向日くん・・・』って言ってたぜ!!そのあとの跡部の顔っつったら、ゆうしにも見せたかったぜー☆」
 「・・・・。」

 楽しそうに先日の出来事を話す向日に、忍足は無言のまま話を聞いていた。
 「な、おかしいだろ!?笑えるだろ!?あっはっは〜!!!」
 向日はそう言いながら腹を抱えて笑っていた。
 「なぁ、ゆうしー?面白いと思わねーのー?」
 作り笑いをしている忍足を、向日は見抜いていた。とても居心地悪そうに笑う彼に、向日は問い掛ける。

 「いや・・・・この後の仕返しのことを考えると、俺はとても笑う気にはなれへんわ・・・なんや嫌な予感がするねん・・・・」
 アハハ・・・と苦笑しながら忍足は言った。
 「あっはっは〜!ゆうしまだそんなこと気にしてたのかよ!!大丈夫だって!!跡部はもうすぐ俺たちの言いなりだぜ!!」
 「世の中そんなに甘くはないで、岳人。」
 「だいじょーぶ☆もう俺たちの勝ちは決まったも同然だぜ!!」
 向日は一体どこからくるのだろうと思えるほどの自信に満ち溢れていた。
 「・・・・・・俺は何も言うてへんからな・・・・俺を巻き込むんやないで・・・・」
 そう言って警戒する忍足の背中を、向日はポンポンと叩いて『心配性だなー、ゆうしは!』と言って相変わらず笑っていた。



 「さってと!そろそろ俺たちの勝ちも決まったし、跡部に何してもらうか決めとかねーとなー!あー今から楽しみだぜ!!」
 ニカッと笑いながらすっくと立ち上がり、『よーしっ!』と腕でポーズしながら向日は言った。


 「フン。何が『よーしっ!だ。愚民どもめ。俺様が負けるワケねーだろ。」
 突然向日の後ろに現れた跡部はフフンと鼻を鳴らしながらいつものように人を小ばかにしたような話し方で忍足と向日の話に入ってきた。

 実は内心は焦りまくっていた彼だったが、天下の跡部様がそんな弱みを部員に見せるワケにはいかない。彼はあくまでも強気な態度を壊さない様子だった。


 「ハン!強がるのも程ほどにしとけよなー、跡部!!」
 ニヤニヤと笑いながら向日が言った。
 「バーカ。これだから俺様のすごさを分かっていない愚民は困るんだよな。この俺様に落とせねー女なんてのはこの世にはいねーんだよ。」
 「ふーん。でもそれにしては跡部、を落とすのに時間かけてるのなぁー?」
 跡部の現在の悩みをズバリ明確に突いた向日の言葉に、跡部は一瞬言葉を詰まれせたようだった。
 しかしまたすぐに持ち直すと、冷や汗混じりに離し始めた。

 「フ、フン・・・。あれはちょっとした演出だぜ。お前らのためにな。」
 「あーそうですかー。それはどうもー。」
 気取った口調の跡部に、棒読みの感謝の言葉で向日が挑発する。


 「てっめー・・・元はといえばお前のせいだろーが!!俺の携帯返せよな!!」
 そう言って跡部は片手を突き出した。『返せ』というジェスチャーを示して。
 「はん!もう俺たちの勝ちは決まったも同然だからな!こんな携帯?返してやるぜ!!昨日もまた20件以上の女から電話があったぜ!俺がぜーんぶ断ってやっておいたから安心しろよな、跡部!!」
 向日は嬉しそうに笑いながらそういうと、跡部に携帯を投げ返した。  跡部はその投げられた携帯を受け取ると、怒りに打ち震えながら握り締めた。

 「お前ら・・・覚悟しとけよ・・・・」
 跡部の受け取った携帯のメモリを確かめながら、『アーン!?』と怒りの声を挙げていた。既に3分の2以上の番号が、その携帯のメモリから消されていた。

 向日はそんな跡部の様子を満足げに眺めると、ニヤりと勝利の笑みを浮かべた。
 しかし、先ほどの跡部の発言に一番不安を抱いていたのは忍足だったようだ。


 「なぁ跡部・・・お前さっき『お前ら』言うてたけど・・・・」
 「アーン!?それが何だよ?」
 向日のせいで、跡部の怒りメーターは確実に上がっている。

 「そのお前『ら』っつーんはもしかして・・・・・」
 「おい跡部!お前負けたら一週間、俺らのしもべになれよ!!」
 忍足の言葉を無視するかのように、突然向日が話し始めた。 忍足の話そうとしていたことを知っていてわざとやっているのか、はたまたただの偶然なのかは謎のままにしておこう、この際。


 「フン。だから言ってんだろ。俺様が負けることはあり得ねぇんだよ。」
 「なぁ岳人・・・その『俺ら』って・・・・」
 「そんなの、分かんないだろ!跡部、俺たちが指をパチンって鳴らしたら樺地みたいに『ウス』って言いながら俺のとこへ来いよな!?うっわー楽しみー!」
 完全に忍足は無視されていた。
 向日はそう言って笑いながらパチンと指を鳴らす動作をしてみせた。

 「お前・・・・俺を馬鹿にしてんのか・・・!?」
 跡部の怒りメーターが10上昇した。
 「(嗚呼、今のは『お前』やったわ・・・複数形やなかったわぁ・・・・vv)」
 忍足の不安メーターが10減少した。


 「フン。跡部は自信あんだろ?ま、せいぜい頑張れよな☆ じゃ、そろそろ授業始まるぜ?あー、あさってが楽しみだぜー♪」
 そう言いながら向日は自分の席へと戻って行った。

 「(ホンマ大丈夫かいな、岳人・・・)」
 先ほど少し減少したとは言え、相変わらず不安に包まれた忍足。そんな不安な気持ちを残しつつ、彼も次の授業の準備へと取り掛かるのだった。


 跡部は口ではあのように強気な態度に出ていたが、正直どうしようかと必死だったのだ。



 賭けの終了まであと2日!
 どうする跡部!?後が無いぞ・・・!!!

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忍足ファンの方、ほんっとーにごめんなさい!
いえ、別に彼は嫌いじゃないんです、私!むしろ大好きです、えぇ!!
だけど私、大好きなキャラほど壊したく、苛めたくなっちゃうヤツですのでvv(何)

彼もこの話では欠かすことの出来ない重大な役なんですよ!
特に次回の話では岳人をなだめるとても重要な役です。